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"好きな写真は撮らない"


 

解対照〈第二部〉(2022.09.03) アーカイブ#1

「好きな写真は撮らない」



佐内正史(以下、佐)

僕は「好きな写真以外」を撮ってるんです。「好きな写真」は撮らないですね。好きというのは、自分が見ていて安心するというか。そういう写真はあまり撮ったことがありません。「好きじゃない写真」を撮ることが、僕の考える写真なんだとずっと思ってやってきました。 今朝、この雨を撮った写真を好きだと思ったのが、自分でも不思議だったんですよ。


永井祐介(以下、永)

普段はあまりない感覚なんですね。


(佐)ないですね。これを撮ったときに雨がすごい降ってて、スコールだったのですが、全身びしょ濡れになって気持ち良かったんです。


(永)佐内さんは写真と記憶がしっかり結び付いてるのが、いつもすごいなと思うんです。その時の光景や、音や匂いを写真を見ると思い出されますよね。


(佐)スコールって、気持ち良くないですか?ザーと降って、暑いのが涼しくなって。基本的にそういう好きな感じ、気持ち良いと感じる時には撮っていないと思います。


(永)はい。


(佐)もうちょっと言うとね、僕はほんとは望遠レンズが好きなんです。でも、望遠レンズは持ってないし、買ったこともありません。好きだけど、そういう写真は撮ってないんですよ。このスコールに出会った時に望遠レンズを使って撮っていたとしても、プリントすると好きじゃなかっただろうと思います。僕は普段トリミングはしないんですね。でもこの写真は少し長め(ワイド)に撮ってからトリミングして、少し寄ると僕好みになると思うんだけど。


(永)佐内さんはトリミングされないですもんね。


(佐)はい。写真の別れ道があってね。好きな方とわからない、未知な方を歩いていく方と。僕は後者なんですよ。


(永)そうだと思います。佐内さんが望遠レンズを使うイメージは全くないですから。


(佐)だって好きだからね。今日は会場に、実際に写真を撮っている方が結構来られてると思うんですけど、みんな好きな写真を撮ってるかもしれない。そこは自分は全然違うんですね。好きじゃないものを、、好きじゃないとは言わないですね。まだ知らない道を歩こうとしてるってことですかね。

今日ここに来るために、家から出たんですけど、「外に出れて良かった」と思ったんです。体調を崩してたわけではなくて、「外に出れて良かった」って、もう25年ぐらいずっと思ってるんですよ(笑)


(永)ずいぶん長い間思ってますね(笑)


(佐)ドアを開けて、エレベーターを降りて、目の前の駐車場を出るんですけど、「外に出る」って最高ですよね(笑)


(一同)(笑)


(佐)雨の日だとしても、窓を開けるだけでも少し良いんですけど。部屋の中にずっといると、なんかちょっと良くないんですよね。どうして外に出て良かったと思うかと言うと、今日は祐介に会うし、ここに来てくれた人達と話したりもできる。少し大きい声で友達と話すっていうのが良いんですよね。だから、今ちょっと声大きめに話してるでしょ?


(永)大きめですね。


(佐)それが多分良いんだと思う。外に出て、友達に会って、少し大きめの声で話すっていうのは、自分が撮ってる写真に近いように思うんですよね。1997年までは1人で撮影に行ってたんですけど、98年からはずっと誰かと写真を撮りに行っています。まず1人で行くことはないですね。誰かと話したりしながら写真を撮っていたら、ある意味で自分の世界を邪魔されるんですよ。それで、自分だけの世界にしないで、邪魔されたまま撮るというか、そういう感じなんです。外に出て友達と会って撮ると、構図が緩くなるんですよね。97年まではずっと、誰も入れない、四角いフレーミングの中にいたんですけど、少しずつ、ゆるくゆるく、窓を開いた写真にしていったんです。


(永)今もそうやって撮ってるんですか?


(佐)今もそうしようとしていて、それが2022年の僕のスタイルですね。自分1人じゃないんです。1人って、やっぱり海の底に向かうんですよ。今は水面近くを浮いている感じです。水面に浮くと広がりがあって、周りがよく見えるんです。


続く/To Be Continued

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