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Essay
色のない世界、物語の端緒
Series Essay
『風景でいよう/Scenic World』 #5
#Scenic World, #writing
生まれながらにして全色盲、つまり「色」を知らずに生きてきた。それはさして不自由なことでもなく、世界は白と黒、その濃淡によってあるべき姿を示していた。それがある日のこと、突然の強烈な光に目が眩み、次に目を開くと、そこにはかつて体験したことのない「色に溢れた」世界が広がっていた。それはほんの数分間だけの出来事だった。それからと いうもの、一年にただ一回、やはり数分の間だけ色を見ることが出来た。それが単なる夢ではないと確信してからは、限られた時間のなかでより多くの色を自分の脳裏に残すため、あれこれ画策し始める。そして本や映像だけでは感じられない、世界の様々な「色」に出会うため、旅に出ることを決意する。
ある日頭に浮かんだこんな物語がキッカケで、脳神経科医であるオリバー・サックスが、自身の患者について記したエッセイ『色盲の画家』と出会う。その患者は六十五歳で遭った交通事故で脳震盪を起こし、それが原因で全色盲になってしまう。それまで画家として「視覚的、色彩的才能を注いできた」その人生から、突如として色が失われたのである。
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