「ロルファーと巡る、ちょっとディープなカラダの時間」 ワークショップ講師 楠美奈生さんインタビュー

2019年2月より、VACANTにて月に1度開催しているワークショップ「ロルファーと巡る、ちょっとディープなカラダの時間」(文中は「カラダの時間」と表記)。講師の楠美奈生さんに、ロルファーになった経緯や、カラダにまつわることを中心に、お話をうかがいました。(取材・文 吉田拓)

ーーー 「カラダの時間」では、知覚・心臓・膜と毎月異なるテーマで、ちょっとディープなレクチャーとワークショップをしてくださっています。楠美さんご自身は、いつ頃から身体に興味を持たれたのですか? 今のように、ダンス以外の方向に興味を持ちはじめたのは10年程前ですね。今になって思えば行き詰まっていたんだと思います。このままじゃ踊りを続けていけないという危機感があって、どうにか突破したいけど、きっかけが見つからなかった。その時に「知りたい」と思ったんですよね。なぜか分からないけど、身体について学ぼうと。 ーーー それまでは解剖学などは勉強されていたのですか? 全くしていなかったです。ただただ体を動かすことが好きでした。クラシックバレエを5歳からやっていて、お稽古も大好きでした。ただ、クラシックバレエに向いた体型ではないので、行き詰まってしまって。それから中国の踊りに触れたときに、自分がアジアの体だと気がついて、また踊ることと繋がり直せました。 その後、舞踊家の木佐貫邦子先生による、コンテンポラリーダンスの作品に出会いました。20年程前に初めて作品を拝見したのですが、自分と同年代のダンサーが舞台上でスニーカーを履いて、カジュアルな衣装を着て、ガンガン頭を振って踊っているのを見て衝撃を受けました。私はクラシックバレエ、中国舞踊と型のある踊りに触れていたので、こんなダンスの世界があるんだ、と驚きました。 ーーー「身体のことを学ぼう」と思われた時に、まずどうされたのですか? 最初はどうやって学べばいいのかすらも分からないまま、ぼんやりと探していました。そんな時に、「ロルフィング」というものがあると聞いて、なぜかピンと来たんですよね。それで、ロルファーの方が開催しているワークショップに参加しました。いま私がVACANTでやらせていただいているようなプログラムでしたが、とても面白かったんです。体の感覚だけでなく、理論も学ぶことができて。「身体って、そういう仕組みになってるんだ!」とワクワクしました。 その後ロルフィングの施術を受けることにしました。そのワークショップ講師の方はあまり施術はされていなかったので、日本で長く活動されているロルファーの田畑浩良さんのところへ行きました。 田畑さんは理論的な説明はあまりせずに、とても柔らかいタッチで施術してくださいました。私自身はただベッドに寝ているだけなのに、どんどん身体が変わっていくのが分かりました。身体と一緒に考え方も解放されていくような、不思議な体験でした。 最初は理論の部分に関心があったのですが、その施術は感覚を大切にするもので、ロルフィングを分かりたくて行ったんですけど、結局分からなくって、そこが面白いと思いました。 ーーーその施術のなかで特に印象に残っていることはありますか? ロルフィングの施術は10回のセッションを通して行うのですが、1回目のセッションの時に軽く触れられていただけなのに、足の感覚が開いて、自分の身体の重さをしっかりと感じることができました。それが最初の印象的な出来事でした。 それから、そのセッション中に自分だけの小さな感覚かもしれないと思っていることが、施術者の方も一緒に感じているということを体感できたんです。微かな身体の変化を一緒に感じて、触れている手が一緒に動いてくれてる。こんなに繊細なことが人と共有できるのか、とびっくりしました。 ーーーロルフィングのセッションを受けるときには基本的に横になっているのですか? セッション(施術)中はだいたい横になっていて、後半は少しだけ椅子に座ったり。最後は必ず歩きます。「キューイング」というんですけど、歩きながらロルファーさんから言葉をかけてもらって、少し意識を変えて歩いたりします。 セッションの際に田畑さんが言ってくださったんですけど、「動きの前に動きがあって、その前の動きがきちんとしていれば大丈夫」って。「その動く前のところを見ているんです」と言われたのも、印象に残っています。そんなところまでみて施術してくれてるんだって。 ーーーロルフィングというのは、施術する側はどのような感覚なのでしょうか? いま日本に140名くらいのロルファーがいるのですが、おそらく皆さん異なると思います。私の場合は、聴くように触れること、を大切にしています。クライアントさんの体が持っている流れやスペースを邪魔しないように、できるだけ安心して心身が変わっていけるように。そして、こちらも田畑さんから教えていただいたのですが、間(ま)やタイミング、どこから触れ始めるか、ということも大切です。本当にケースバイケースではありますが。

ーーーご自身がロルフィングのセッションを終えられて、すぐにロルファーになろうと思われたのですか? 実はロルファーになろうとは思っていませんでした。ただただ、もっと身体の勉強をしたいと思って、アメリカに行き、ロルファーのトレーニングを受け始めました。満足したら、いつ辞めても良かったんですけど、トレーニングが面白くて結局最後までやろうと。 ーーーどのようなトレーニングをされたのですか? まず解剖学、生理学を学びます。そして、筋膜への触れ方。他にも「セラピューティック・リレーションシップ」という、施術者とクライアントさんとの距離の取り方ですね。しっかり施術を続けていくための自分の守り方など、仕事として続けていく場合に大切な部分です。 それらを学んだら、次が「エンボディメント」。体感することを学ぶのですが、ロルフィングのトレーニングではとても大切にされています。ロルファー自身の身体が何を体感しているかが、クライアントさんにどんな言葉を届けられるかということに繋がってきますので。生徒同士でセッションをし合ったり、歩くことについて細かく科学的に学んだ上でインストラクターの方に自分の歩き方を解説してもらったりしながら、理解を深めていきました。 ーーー歩くのは、一見簡単そうですが難しいですよね。 難しいですよね。それでいて、楽しいですよね。少し脱線してしまいますけど、最近裸足で歩くのが楽しいんです。裸足の時に、靴を履いているような歩き方をしてしまうと痛いので、全身を使って歩こうとするんです。そうするとどんどん体がほぐれていくんですよ。ずっと気づきを持ちながら歩くことで心までリセットします。 ーーー「カラダの時間」の第1回目は、まさに足裏へのアプローチから始まりましたね。 「知覚の広がりと体の変化」というテーマでしたね。参加者の皆さんには、薄いゴムでできた小さなボールのような羊のおもちゃを、足裏で優しく触れていただきました。繊細な感覚を養うと、ただ立つだけでも感覚が変わりますからね。重心のかかり方も掴みやすくなります。 ーーー足だけじゃなく、全身の感覚が繊細になって驚きました。    少し話を戻すと、解剖学・生理学や筋膜への触れ方を学ばれて、ご自身の感じる力を養い、クライアントさんとの関係の築き方を勉強して、テストに合格すればロルファーになれるのですか? 他にレポートの提出などもあります。それらをクリアして、最後に8週間かけて外部のクライアントさんを担当して施術をすれば、ロルファーとして活動が始められます。 ーーー英語で施術されたのですね。そこから日本に戻ってきて開業されて、何年目ですか? 今年で11年目に入りました。 ーーーVACANTは今年で10周年ですから、ほぼ同級生ですね。どのような方が施術に来られますか? 私は女性が多いですね。私自身がダンスをしていたので、「ダンサーが多いですか?」と聞かれるのですが、ダンサーに限りません。普通にお仕事されていて、首肩の調子が悪い時期が続いているのを根本的に解決したいというような方であったり。ロルフィング自体がまだあまり知られていないのと、マッサージなどとは料金も異なるので、覚悟を決めていらっしゃる方が多いですね。 ーーーマッサージだと施術中は受け身でいるというのが基本だと思いますが、ロルフィングはもう少しお互いに働きかける感じがします。 そうなんですよ。ロルフィングでは、治療と言わず、「ボディ・エデュケーション」と言いますから。他にも「重力がセラピスト。ロルファーは教育者」と言ったりもします。「クロージャー」という言葉もありますが、これはセッションをクライアントさんが自立できるところで終わらせることを指します。最初は聞き慣れない言葉が多いので、少し戸惑われるかもしれませんね。 ーーー最初はそうかもしれません。でも、すごく言葉を大事にされている、ということを感じます。アメリカ生まれのものなので、日本に言葉として持ち込むのが難しい面もあると思うのですが。でも「ボディ・エデュケーション」という言葉はもっと広まって欲しいですね。学校教育の中で個々人の体を学べる機会は少ないですから。 そうですね。4月から大学で授業が始まって、演劇学科のダンスの授業なのですが、「身体のことが苦手だったり、自分は運動音痴だと思ってる人はいますか?」と聞くと十人くらい手が上がります。学校教育の中でスポーツの記録が出なかったり、乗り気ではない時に無理に競争させられたりして、身体のことが嫌いになってしまう人も多いようです。でも身体のことってそれ以外にも、「カラダの時間」でやらせていただいているような、自分の今の身体に気がつくとか、そういったアプローチもできますからね。今はだんだん変わってきていると思いますが、学校教育の中ではスポーツやしっかり鍛えることの比重が少し多いのかもしれません。どんな人の身体も本当にすごいので、きちんと出会えたら豊かな世界が広がると思います。 ーーーロルフィングを経験されたことで、ダンサーとして、踊り方は変わりましたか? 私がやっているコンテンポラリーダンスの世界では、作品によって動きの質感が異なる場合が多いですが、そういったものが捕らえやすくなったことを覚えています。ダンスのテクニックだったり、ずっとバレエをやっていたので飛ぶのも回るのも大好きだったんですけど。細かい体の質感、例えば水だったり、そういうものを体に移すときの作業が楽しくなりましたね。身体を捉える感覚が細かくなったような感じがしました。ロルフィングに出会う前よりも、身体についての知識や言葉が増えていることも関係しているのだと思います。

(VACANTでのレクチャー風景)

ーーーこのようなスタイルのワークショップはされていたのですか? はい。カルチャーセンターや都内のダンススタジオでも呼んでいただいたりしています。 こちらでは「ちょっとディープな」とタイトルに付けていただいたので、他の場所ではできない部分にも挑戦できるのが楽しいですね。 ーーー参加を考えている方にお伝えしたいことはありますか? できるだけ面白く、楽しんでいただけるように内容は考えていきたいと思います。「今ここにある身体と出会う」ということをテーマにやっているのですが、出会うための入り口として知識的な部分をお伝えできればと考えています。その上で、シンプルな動きなどを通して体感していただきます。知ることで気がついて、例えば自分の心臓に「毎日ご苦労様」って感謝したり、少し体のことを大事にしてみたくなったりするきっかけになれれば嬉しいです。 気が付いていないけど、生きているだけで身体の中では、すごいことが起きているんです。そのことに出会えて、気持ちが凹んでいたけれど、体はこんなに頑張ってくれているんだから、もうちょっと頑張ろうかなって思えたりするような。そんな時間にできたらいいなと思っています。 ーーー良くも悪くもですけど、体ってどんどん変わりますもんね。

本当にそうです。自分の選択次第で。それに、ある瞬間に何かを選択しようとしたときに、実は身体をはじめ、いろんなものにサポートされている。そう思えたときにちょっと勇気を持って踏み出せたりするように思います。 ーーー最後にお聞きします。楠美さんが考える、心地いい体ってどのようなものですか?

ちょっと抽象的な言い方をすると、「体全部が一滴の雫のようで、抵抗なく全身で呼吸できている状態」でしょうか。具体的には「身体のどの部分も役割を果たして、状況にちょうどよく対応できている状態」ですね。 ーーー感覚的な言葉と、機能的な言葉の両方が出てくるあたり、ロルフィングや「ロルファーと巡る、ちょっとディープなカラダの時間」のワークショップを象徴しているように感じます。本日は誠にありがとうございました。

こちらこそ、ありがとうございました。

楠美奈生さんへのインタビューは以上です。最後まで、お読みいただきましてありがとうございました。

ワークショップへのご参加をお待ちしております。詳細・ご予約はこちらをご覧くださいませ。

楠美奈生(くすみ・なお)

ロルファー/ダンサー

5歳からダンスを始め、クラシックバレエ、アジア民族舞踊を学び、ダンサーとして、木佐貫邦子、近藤良平、上村なおか、福留麻里の作品に参加。コロラド州ボルダーのDr.Ida Rolf institute™️でトレーニングを経て現在ロルフィング®︎の個人セッションを高田馬場にて提供する。オステオパシーのバイオダイナミクス、コンティニュアム等の学びを続けながら、桜美林大学芸術文化学群、日本大学芸術学部で講師を務める。合気道愛好家。http://naokusumi.com/

©️Shouichi Nakamura

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