Introduction


BABELO(以下 B)

最近面白いと思っていること、聞いてもいいですか?

星野概念(以下 星)

ここ半年とか、 去年の後半辺りから目まぐるしくて、自分の状況を変えたいようなモードになっています。

僕は2013年頃から精神科医としての活動が時間的にはメインになっていて、 それまでは音楽活動をやったりもしていました。今もちょこちょこはやっていますが。

その他に執筆業もありつつ、ベースは精神医療福祉になってきているのですが、ここ数年はずっと常勤医として、 病院の精神科で働く時間が圧倒的に多かった。去年の中頃辺りから、「この先こんな風に、ずっと病院で勤めていくのか」という思いが自分の中で湧いてきて。でも、僕の興味はいろんなところにあるんです。それで、寄り合いみたいな場所を作りたいという思いが初めに湧いてきました。目的が限定されていない、寄り合い所のような場所が、実はメンタルヘルスで1番大事なのですが、1番失われている場所なんじゃないかと。

「ここは〇〇のための場所です」「〇〇のための会合です」と、目的が規定されたような所ばかりだから、そういうのではなく、なんとなくの、寄り合い所みたいなところ。メンタへルスの観点を持ちながら、そういう場所を作りたいなと、めちゃくちゃフワっとした思いが出てきて、考えているうちに、東京だと土地や場所を持っていないとなかなか難しいんじゃないか。東京以外だとどうだろうと考えて、国内の東京以外の場所に行きまくって、岡山県に移ってみようというところまで進めました。でも、岡山県に移ることに対しても、葛藤が生じたのが超最近で。場所を移せばそれでいいのか、みたいな感じに今なっていて。それで、原点回帰を急に僕はしていて、今の自分を形作ったものや文化的な経験に触れたくなって、本を読んだり、そういう体験に急に回帰し始めている数日間の真っ最中にいるんですよ。

B:なるほど。

星:だから、そういう本を今日は持って来ました。こんな風にどんどん話していいんですか?

BABELO 07:10

一応僕はタイムキーパーですけど、あんまり時間は気にせず話してもらって大丈夫です。

星野概念 9 07:25

わかりました。音楽をやっていた時は、「売れなきゃいけない」とか、「こうせねばならない」みたいな感じに縛られていながら、なかなかそうはならない。自分との葛藤がずっとありました。でも一旦自分の生活を音楽中心にするのはやめて、病院に勤め始めて、それで出会ったのが、この神田橋條治という精神科医なんです。昔の指導医に読んだ方がいいよと教えてもらった著者のうちの1人が神田橋先生だったんですよ。そこから10年ぐらい精神医療の道から外れて音楽やって、戻ってリスタートする時に、以前勧められた本を読んでみようと思って。その時に1番ピンと来たのが神田橋先生でした。この『精神療法面接のコツ』は結構ボロボロになってるんですけど。

BABELO 09:11

概念さんにとってのバイブルなんですね。

星野概念 09:13

ほんとにバイブル。結構自分の人生の指針のようになっていて。「自分はこういう風な思想やメンタリティでいると心地いいんだな」と教えてくれたような感じがあって。神田橋先生がどんな人かを説明するのはなかなか時間がかかるんですが。もともと精神分析をやっていた人なんだけど、精神分析の枠組みに捉われずに、目の前の人の気持ちや感情、何が辛いのか、何が得意なのか、みたいなことをわかろう、理解するのではなくて感じようと取り組み続けている方で。 例えば「共感」という言葉ひとつとったとしても、「シンパシー」は相手に対して理解をして同情するんだけど、「エンパシー」のような相手と共鳴するところまで、どうやったら感じられるのかを、著書を読む限りは追求してきた人で。 それをやっているうちに、精神分析の枠に収まらなくなって、だんだんオーリングテストとか、非科学的だけど実際に効果があるようなことをやり始めたそうです。オーリングテストはカイロプラクティックの考え方から生まれた、人の筋肉の微細な変化を感じとって、その人が心地よい状態にあるか、そうじゃないかを判断するものなんですけど、そこに行って、そこからまたどんどん自分で、それを応用してという風に技の探求をしていって。 今では、架空の竹串を脳天に刺すと、愛着の年齢がわかるという風になっておられます。

BABELO

際どいところもあるんですね。

星野概念 12:13

そうなんです。だから、いわゆる精神医学界の今の中心的な人から見ると、「あのおじいさん何言うとんねん」みたいになっています。もう86歳なんですよ。だから、「お年を召されて独自の世界に行き過ぎちゃいましたね」のように言われることもあるんだけど、先生の論文や本を順を追って読んでいると、そこに行きついた理由もわかるような気がしています。架空の竹串はマイナス1歳から順番刺していくんです。いきなりそんなこと言われてもよくわかんないと思うんだけど。マイナス1歳、0歳、1歳、2歳、3歳って手を動かしながら刺していくと、例えば5歳とかで先生の竹串が刺さらなくなる。

BABELO 13:12

はい。

星野概念 13:12

それが刺さらなくなるのは、先生の筋力に変化が起こっているからで、「5歳」と言った時に相手の人から、先生の筋力が動かなくするようなものを感じているから、「5歳でこの人は愛着のつまずきがあるはずだ」という。細かく解説すると、そういった方法を開発したりしている方なんです。僕はその自在な感じ、医療に縛られてないけど先生の中では筋が通っていて、周りが納得する。エビデンスがどうかよりも、自分の感覚で助言をしたり、人に役立つようなことを考えたりしている姿勢を読みながら感じていて、「これだ!」と思いました

病院にずっといると、今の診断基準は治療のガイドラインっていうものがあるんですけど、 それに対するアンチテーゼを考えたり、そのガイドラインを真にすると、みたいな考えになってくるのですが、そもそもそうじゃなくて、自分が人に役立って、自分が面白いと思うことをやっていくスタイルを僕は神田橋先生から受け取ったような気がしています。

BABELO 15:09

今のお話を聞いて、「ロールモデル」の話に繋がる気がしました。概念さんが自分のスタイルで、音楽活動と精神科医とをやっていることに神田橋先生のような方が影響を与えている。神田橋先生は音楽をやってなかったとしても。

星野概念 15:57

でも、先生の著書には「患者さんを呼ぶ声によって、患者さんの状態が変わることがわかった」という発見についても書かれています。それで、先生がいろんなボイストレーニングをして、「患者さんを呼ぶ声を色々試してたら、ホーミーができるようになりました。」って書いてあって、「音楽と繋がってるんだ!」と驚きました。

BABELO 16:17

概念さんの領域横断的なところとか、アンチテーゼを含むような姿勢も、神田橋先生がロールモデルになっているということなんですね。

星野概念 16:30

そうですね。 音楽をやっていた頃よりも今の方が自由というか自在であるような。教科書に落とし込めないアートの要素みたいなものが入ってきているような気がします。

BABELO 17:01

科学ではたどり着けないような。

星野概念 17:03

教科書的なものから自由にならないと、その人ならではの無理のない素敵さにはたどり着けないんじゃないかと思います。音楽をやっていた頃はできなかったけど。 神田橋先生が自在で楽しそうっていうのが、僕はロールモデルとしたい部分ですね。

BABELO 17:40

面白いっすね。それに概念さんは、「自由」ではなく「自在」という言葉を使うんですね。

星野概念 17:44

はい、「自在にしている」みたいな。 でも、それも先生の影響かもしれません。「自在性を希求する」といった言葉を結構使われるんです。 そういった言葉遣いからもかなり影響を受けていますね。

Influence

BABELO 18:02

先ほど、今は自分の原点を見返すタイミングだと言っていましたが。 例えば僕の場合には、韓国と日本にルーツがあるので、原点となると言葉や国籍みたいな文化的背景に向かったりもするんです。概念さんの場合は、いつ、何に戻るという感じですか?家族背景や出身地など色々あると思うのですが。

星野概念 18:52

もちろん家族背景みたいなのはありますよね。僕の解釈だと、自分の家族関係や親子関係はわかりやすく支配的ではなかった。要は暴力で支配されるわけではなかったけど、特定の道を歩むように強く導くような感じというか。そこを少し外れそうになると暴力じゃないんだけど、冷ややかな目で見られまくるような感じで。「あ、そっか、それじゃダメなのか」みたいになる感じが続いていたという風に解釈しています。そういう傾向に対しての自在性に気づかせてくれたのが、神田橋先生のような気がしていて。「そんなに背負わせないでくれ」って僕は勝手にそういう風に思っていたのですが、「そっか、これでいいんだ」って思えた気がします。

その感覚は、コツを掴んだようなところがあって。だから、原点とは言っても、 その原点を掘ってより大きな、例えば民族性のようなところには、僕は今のところ向かっていなくて。なんでだろう。東京で生まれたからなのか、わかりませんけどね。

BABELO 21:12

ふと、いろんな人の内面の話を普段いろんな人から聴いている方に、僕が質問をするというのは、ちょっとすごいことをしてしまっている気がしてきました・・・

星野概念 21:33

いやいや、逆にあまり話し慣れてないから、たくさん喋ってるなって、今、自分で自分にツッコミを入れてました。なんかうまく話せないですね。

BABELO 21:52

いつもは、とにかくめっちゃ聴いてるんですよね?

星野概念 21:54

めっちゃ聞いてますよ。その、めっちゃ聞いてる時には、僕が共鳴できるような場所があるか、のような形の聞き方をしていて。そうすると、お互いに向き合う関係じゃなくて、その人が辛いと思っている体験を一緒に眺められるような感じに変わるんですよね。そうじゃないと、その人の辛さを見て、どの角度から理解するかみたいになってしまうんですけど、とっかかりを掴むと一緒に見れる。まあ、そういう聞き方をしてます。だから、めちゃくちゃ聞いてはいる。

BABELO 22:45

これは余談なんですけど、僕が子供の頃に母親がボランティアでカウンセリングをやっていたんです。しかも、あまり日本語が完璧じゃない状態でやっていて。それで、本当はだめなんですけど、彼女が聞いてきたクライアントの話を、僕が日本語に清書してあげていました。昔そういうものに触れた経験があって、 概念さんのような精神医療の分野に興味がありました。

Curiosity

BABELO 24:03

この1番のカードに記されている「フロー体験」はご存知の言葉ですか?時間を忘れてしまう体験というような意味で、ポジティブ心理学なんかで出てくるのですが。実はカルチュラル・アントレプレナーシップの文脈でもよく言及されるもので。色んな文脈で応用されているとは思うのですけど。 自分のゾーンを知っているかどうかということと、ウェルビーイングって、関係があるじゃないですか。仕事選びや、特に自分で何かを立ち上げる人というのは、自分のコンフォートゾーンをきちんと知っているかどうかがより大事になってくる、というような類の話で。上手に自分の活動を作っている人達の中には、 自分が気持ち良くなれる体験を知っていて、なるべくそこで活動していこうというのがあるのかなと思っています。自分のリサーチや探求心みたいなものから何かを立ち上げている人が多いと思うのですが、概念さんにとっては音楽活動がそうなのでしょうか?精神科医療の領域とはどう繋がるのかはわからないんですけど、そういう没頭するものの、延長に今の活動があるのかなと思いまして。

星野概念 25:23

それはそうですね。

BABELO 25:28

音楽だけじゃなくて、精神医療や他の活動もそうだったんですか?

星野概念 25:32

自分がどんな時に夢中になるのか考えると、昨年『ないようである、かもしれない』という本を出したのですが、「ないようであるもの」にやたらと引かれるし、探したくなるっていうのがあるんです。例えば、先ほどのオーリングテストを簡易的に説明すると、こう親指と人差し指で「O」を作って、それを誰かがを外そうとするんです。その時に、 例えばこのお茶がその人にとって相性がいいものだとしたら、微妙に筋力が強くなるから、 外れにくくなる。その人にとって相性が良くないものだったら、相性が良くないものに触れるってことは、少しだけ具合が悪くなるってことだから、力が入れれなくなって外れやすくなる、みたいなことなんですよ。でも、そんなのは「科学的じゃない」んです。いわゆる西洋医学のエビデンスがあるようなものではない。 だけど、実際に膨大な種類がある薬との相性が見れたりするようなことを知って、ものにしていくみたいなことが無類に好きで、時間を忘れるようなところがあるんですよね。「なるほど、そういう自分の知らないものがここにあったのか」というように。今日も訪問診療でお家に行って話を聞いてたんですけど、人っていろんな生活スタイルがあって、家に行って話を聞くと、それがめちゃくちゃ見えるんですよ。

あと、例えば95歳のおばあちゃんで、全然youtubeとか見れたりしない人が「もうすぐ噴火が来そうで心配だ」とか言ったりして。なんでそんな感性持ってんの!って、驚かされるような、全然知らなかった小さいエピソードに触れるのがすごい好きで。好きというか満たされるというか。ずっとやれちゃうみたいな。

フロー体験と紐づけて話してみましたが、今日持ってきた2冊目にいきましょうか。『断片的なものの社会学』は岸政彦さんという社会学の方が書かれて。

BABELO 29:40

ブルデューについて書かれていた方ですね。

星野概念 29:41

そうです。専門は沖縄の被差別部落でのフィールドワークのようなのですが、この本にはフィールドワークをした際に、こういう話をして、この人はこういう風に言っていた。みたいなエピソードがたくさん書かれています。 エッセイのような文章はオチをつけたり、面白くまとめたりすることが多いのですが、そんなことはせずに。岸さんの文章力がすごいというのも大きいんですけど。 「こんな人がいた」「こんなエピソードがあった」と大袈裟でなく、ウケ狙いをせずに書かれていて、そういう形は僕の在宅医療に対する興味を開いてくれたように思います。結局日常が1番面白いというか。面白さを求めて訪問しているわけではないんですけど。

BABELO 31:09

訪問診療の中に面白いものがあるという感覚と、精神科医としての活動に繋がる部分はあるんですか?

星野概念 31:25

人の生活の細かいところに、めちゃくちゃ不思議なことがあるという視点でしょうか。

BABELO 31:32

音楽にも、そういう要素はあったんですか?音楽をやっていた時に気持ち良かったのかどうか。

星野概念 31:45

いや、今になって考えると音楽はそういうことよりも、目立つためにやっていたようなところがあって。僕はたまたま曲がいっぱい作れたんですよ。高校生あたりからギターを始めて、別にギターが上手いとか、歌が上手いとか全くなくて。むしろ下手なんだけど、曲が作れた。それを人に聞いてもらったら、「すごいね」みたいな感じになって、学祭とかで演奏したら、そこでも褒められたりしたので「自分は人よりも曲を作れるのかもしれない」と思いました。 それで「もっと俺を見てくれ」ってやっていたという方が思い返すと大きい気がする。 でも、曲を作ってる時は、ほんとに夢中で、それこそフロー体験というか、ゾーンに入って、全くご飯を食べずに何時間もやっていましたね。だから作ったりするのは好きだけどっていう。

Rituals

BABELO 33:26

自分の感覚を自分らしく維持するために、時間の使い方をはじめ、いろんな創意工夫をされている人いると思うのですが、概念さんはその辺いかがですか?

参加者 6 34:10

今年の3月末にヴィパッサナーの瞑想センターに行ったんです。僕は頭の中が忙しくなるというか、興味が拡散してしまうので、 それまでは瞑想をやろうとしても全然できなかった。でも、瞑想センターに行って、10日間ずっとやったらコツを掴んだようで、1時間くらいは瞑想できるようになりました。瞑想している時の状態は毎回違うんだけど、ずっと何かが流れてるような感じがあって夢中になれる、それで終わった時には頭がスッキリしてるので、まさにフロー体験のような感覚があります。

だから、なんかいいなと思って、毎日じゃないけど、できるだけするようにしています。「朝と晩1時間ずつしなさい」と講話では言われたのですが、今のところそれはできていなくて、 それでも30分くらいはするようにしたいと思っています。とはいえ、原稿の締め切りが近かったりすると、「1時間も瞑想しちゃっていいの?」みたいな気持ちになってしまって。

BABELO 35:53

僕もそういう時ありますね。例えば毎朝必ずハングルと英語の情報摂取を30分ずつやることにして、9時半から10時半なんですけど、それがまぁいろんな事情で予定通りできなくなる。そうすると、夕方に持ち越してみたり、翌日にこう持ち越してみたり、自分なりに都合つけたりするんですけど。そういうこともされますか?

星野概念 36:21

します。なんとか持ち越してもやりたいなとは思ってるけど、それでも瞑想は最近週に1度くらいになってきてしまっていて。でも、それは自分の頭の中が散らかってる証拠だなっていうのもわかってるんですよ。

BABELO 36:46

忙しいからというだけではなく?

星野概念 36:48

忙しい中でも30分とかはできるはずだし、 瞑想センターから帰ってきたばかりの時はできてたんですよ。だから、何を優先するかみたいな感じで。やっぱり僕は頭の中がすぐせわしなくなるから、「何かをすること」を選択しちゃいがちなんです。瞑想は、なんていうのかな、瞑想以外何もしないっていうことで。例えば、「動画を見ながらご飯を食べる」みたいなことじゃなくて、欲張らずに他は全部捨てるというのが瞑想することだ、という風に感じていて。その欲張らない選択が僕にとっては難しい。だから以前の状態に戻ってきちゃってるな、と思っているところではありますね。

Balance

BABELO 38:59

「どうやって飯食ってるんですか?」っていう質問がありますよね。人それぞれいろんなやりくりをしていると思うんですけど、僕は割とそこにも興味があるんです。つまり、ある種の現実と理想の狭間で、いろんな人たちがいろんな都合をつけながら生きていますよね。特に創作や表現活動などであればあるほどに、make moneyすることと、純粋に自分が作りたいものを作ることが乖離してしまう。別の言い方で言えば、便宜上「JOB」が「for money」だとすれば、「WORK」は「作品作り」など自分の人生に近い営みみたいなところで。「おまえ作品づくりしないでアルバイトとかして不純だな」みたいに、作家活動にはある種の偏見のような見方もある気がして。その辺りについては、どんなバランスで活動されていますか?

星野概念 40:46

バランスとしては音楽をやっていた時も今も割と一緒で、やりたいことを自分に嘘なくなるべくやるようにしています。でも例えば、話を聞く時にしっかり聞ききるみたいなことをやろうとすると、全然稼げないというか、要は効率が良くないわけですよ。5分とか10分で、1人1人診ていくのと、1人に1時間かけるのとでは全然違いますよね。 後者のスタイルだけだと、やり方は色々あるとは思うんですけど、なかなかうまくいきません。だから、結局はお金をしっかり稼ぐというか、アルバイトのような気持ちでいる時間も僕にはあります。でも、なるべくそんな時間は減らそうとしたり、そういう時間はあったとしても、 何かしら学びや気付きみたいなものがありそうな仕事を選ぼうとしています。それはそれで欲張りなのですが、やりたいことに純度100パーセント、ピュアじゃなきゃいけないというのはあまりなくて。お金のためで仕方なくという風に始めたものもたくさんありますけど、結局それも人の営みに関わることだから、絶対何か発見があるんですよ。だから、「ジョブ」だからと割り切るよりも、自分が目を向けてなかったところに何かあるんじゃないか、という姿勢でいる気はしますね。

BABELO 43:42

それは大事なことですね。

星野概念 43:46

実際にあるんですよ。よくわからない出会いが転がっていたり、自分から望んだ仕事ではなくてもやってみると、「こういう人達がこのことをやってるんだ」というような発見が。一見少し距離を置きたいと思っているような人達がいる場所に行くことがあっても、実際に会った感じを受けとることや、知らないものを知ろうとするようなメンタリティではいるようにしています。

BABELO 44:37

そういう風に聞くと、先ほどの「JOB」や「WORK」といった区別も、さほど意味がないように思えてきますね。

星野概念 44:50

音楽活動をやっていた頃は頭が固かったので、「ミュージシャンと名乗るからには音楽で食ってないとダメだ」という戒律を自分に課していました。医師免許があったので、医者としてパートの仕事をやっていたんですけど、恥ずかしさがあったんです。でも今思うと、そういう場所にこそすごい発見があって、今に活きていたりしますからね。 でも、その時は「ジョブ=医者」と「ワーク=音楽」とを意識の中ではっきりと分けていたので、めちゃくちゃやる気なかったですね。それは良くないんですけど。でも、今は結構なんでも前向きにというか、 何かを見つけようとする姿勢でいられるようになっていますね。

Motivation

BABELO 46:10

どうして音楽と精神医療という組み合わせに行き着いたんですか?

星野概念 46:39

結果的になってしまったのですが、そもそもどうして医師免許を習得したのか自分でも不思議なんです。高校生の時に将来何がしたいかって自分でもよく分かりませんでした。音楽は続けたいと思っていたけど、いわゆるプロになりたいのかどうかも含めて。それで高校を卒業して、学部を選ぶときに、親が「医者はいいぞ」みたいなことをずっと言っていて、 その影響は絶対にあったと思います。その世界に入りながらでも、たぶん音楽は続けられるだろうと思って、入ってみたような感じです。おそらく親も含めて周りは「医者になったら、音楽なんかやめるよね」と思っていたんでしょうけど、 全然そうならなかった。何がそうさせたのかは分からないですが、初めはそんな感じでした。「別に医師免許があっても、音楽をやったっていいじゃないか」とか、「他のことをやりながら、医者を真面目にやってもいいじゃないか」というように、1つに決めなくてもよいという価値観を持っていたい、なんなら提示したいみたいな思いは、そんなに自覚的なわけではないですけど、振り返ってみるとあったのかもしれないですね。「そんながっちりしなくていいじゃん」みたいなことに、今もこだわり過ぎてるようなところはあるので。

BABELO 49:50

プロフィールに「精神科医など」と書かれていたり、『ないようである、かもしれない』という著書のタイトルも、そういった曖昧さへのこだわりが感じられますね。

星野概念 50:01

それが言いたいところなのかもしれないですね。「よくわからない存在でもいいじゃないか」みたいな。わけわかんないですけど、それがモチベーションなのかもしれません。一方で「同世代の人が大学で准教授とか講師をして、学会では立派に発表しているのに、俺はなんなんだ」みたいな自問自答をする時もあります。それで少し困るんですが、そもそもこうやって話してみると、よくわからないからこそ良いんだっていうところがあるような気もしますね。

Refreshment

BABELO 51:26

ちょっと自分を責めてしまう時や、うまくいかない時の話は結構大事だと思うんです。孤独だったり、思い詰めた時のリフレッシュの方法は、特に自分の表現や存在について考えている人にとっては大事なんじゃないでしょうか。精神的に詰まってしまった時はどうしていますか?

星野概念 52:09

詰まる時、ほんとによくあるんですよね。

BABELO 52:20

普段から詰まっている人の話を聞くお仕事されてますしね。

星野概念 52:24

まあ確かに相手の詰まり感が影響してしまうところもあるのですが、 話を聞いている時は、そこに夢中になるので、自分の詰まってる感からは解放されるんですよね。だから、そういう時は自分のモヤモヤを忘れるようにワーカホリックな感じになったりもします。

やっぱり瞑想に行ってよかったと思うのは、瞑想してる最中に体が痛くなったりするんですけど、でもそれにこだわらずに「痛みが今来てるな」ぐらいの感じでほっとくんですよ。そうするといつの間にか痛みが去っていくんです。そのことを10日間かけて、 最後の方に体感できたんですね。それまでは痛みが嫌だから、「この痛み取れないかな」と思ってやっていて、結局ずっとそれにこだわってる状態で。「どうやったら痛みが取れるんだろう」って姿勢を変えてみたりとか。 それに執着して取り除こうとすると余計に心がそこにフォーカスして、実際の痛みよりもどんどん痛くしていっちゃうんです。だけど、「痛みがあるな」と思いながら、そのままでいるといずれ去っていくことを体感したんですよ。 だから、うまくいかない時とか、めっちゃ辛い時も、「今うまくいってないな」と思いながら、うまくいかせようとするよりも、そういう時こそ淡々とやってみる。もちろん辛いですよ。うまくいかないから、どうにかしたいと思うし。酒量が増えたりするような気もするけど。

でも、それも含めてうまくいかないことを嫌悪しないことにしたんですよ。そうすると、ある時、急に「あれ、なんでこんな滞りを感じてたんだ」「いいじゃん、別に大丈夫じゃん」みたいな感じになったりして。

BABELO 55:10

通り過ぎていくというやり方ですか。

星野概念 55:12

通り過ぎていくのですが、別に何もしないわけではなく、できることはやるんですよ。「ここは上手くいっていないから、ちょっと基礎に立ち返ってみよう」とか「ちょっと他の考え方を入れてみよう」みたいな感じで。今まで触れてこなかったようなものを読んでみたりして、あがきはするんだけど嫌がらずに、 「これも一つの流れなんだろう」「意味があるんだろう」のようなメンタリティーにした方が、うまくいかない時も愛せるように思います。ただ、うまくいかない時って、やっぱりすごく辛いんですけど。

Friends

BABELO 56:08

なるほど、それはでも、ほんとにある気がします。

概念さんにとって、コミュニティとかパートナーといった、自分以外の人の存在は大きいですか

星野概念 56:37

とても大きいですね。濃い人間関係になるのが得意なわけではないんですけど。でも、繋がっている人がいると安心します。何かがうまくいっていない時に、なんとなく繋がっている人から連絡が来て、何かが流れ始めるようなことが、なぜか絶対に起こるんですよ。だから自分以外の人にすごく助けられてるなとも思うし、パートナーの人にももちろん助けられています。すごく感謝していますが、でも、絶対にこのコミュニティが自分の全てを救ってくれる、というわけでもないんです。なんというか、緩い繋がりが大事だなと思います。だから、僕は寄り合いを作りたいと思ってるのかもしれないですね。

BABELO 58:23

固定した関係ではなく、少しランダム性を含んだような繋がりを構想しているのですね。

星野概念 58:34

気分によって、ある時は1人でいて、別に大して誰も介入してこないけども、繋がりは続いていて、関係性の度合いが上がったり、戻ったりするような。

BABELO 59:05

なるほど。

先ほどのお話で、岡山に行くというプランが、少し曲がり角を迎えているという理解をしたのですが?

星野概念 59:18

自分の中でですけどね。予定している勤務先がしっかりとした大きな病院なのですが、僕が東京との行き来をするつもりなので、感染症対策の部分で迷惑をかけてしまうように思えてきまして。ここ数日で感染者が増えてきて、あちらの病院の方から院内の感染症対策について教えていただいて、「そんなに厳格にしてるのに、行き来していいのかな?」と気付いたというか。

BABELO 01:00:12

そうでしたか。

星野概念 01:00:14

これももう一度考えてみるきっかけなのかなと勝手に捉えていて。だから、今日インタビューを受けるのはすごくタイムリーで、先週この話をしてたら、全然内容が変わっていたと思います。「僕決めたんです。岡山に行きます!」みたいな感じになってたはず。今は考えがぐるぐるしています。

BABELO 01:01:00

いいタイミング!では、一旦ここまでにしましょう。

After Talk -1

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星野概念 01:01:49

神田橋先生は週2回、50名ぐらいずつ診られていて、コロナ禍になる前は僕も毎月鹿児島に行って診療を見学していました。「陪席」と言うんですけど。

BABELO 01:02:16

陪席ですか。

星野概念 01:02:18

普通陪席するのは1人とか、多くて2人くらいなのですが、先生は「みんな見て感じればいいでしょう」みたいな感じで、大体8人ぐらい陪席者がいて、患者さんが来ると後ろにどっさり人がいるんです。

BABELO 01:02:46

先生の芸術性に、ある種魅了されている雰囲気もありそうですね。

参加者 8 01:02:49

そういう人が学びに来ているところはありますね。

BABELO 01:02:57

確かにお聞きした印象だと、いわゆるオーセンティックな医療界からの厳しい視線もあるのでしょうね。

星野概念 01:03:06

特別枠みたいになっていますね。今までの功績を知っている人もたくさんいるので、「追放だ!」のようになるわけでは全くなくて。リスペクトはされてるんだけど、僕ぐらいの世代より下の人たちは「?」みたいな方が多いかもしれません。

BABELO 01:04:28

概念さんは、今はどんな原稿を書いてるんですか?

星野概念 01:04:30

今日書くのは「2週間に1回本を読んで、思ったことを書く」という連載です。

BABELO 01:04:59

ちなみに何について?

星野概念 01:05:01

今回はブレイディみかこさんの初小説『両手にトカレフ』です。

BABELO 01:05:14

ほんとですか?僕ブレイディさん大好きなんですよ。

星野概念 01:05:21

あの方すごく素敵ですよね。この小説もめちゃくちゃ良かったです。ヤングケアラーの子供たちが題材で、お母さんがアルコール依存でお父さんは当然のようにいないんですけど。弟を必死で守ろうとする女の子が主人公で、その子がたまたま図書館でおじさんに渡される本が、日本人の金子文子という方の著作で。

BABELO 01:06:36

朴烈(パク・ヨル)のパートナーですね。ラディカルレフトの。

星野概念 01:06:44

そうそう。ラディカルレフトの人の幼少期の体験を、その子は自分と重ねて読んでいて、金子文子の幼少期も辛すぎるんですけど。文子の物語を読もうとなると、金子ふみ子の物語が始まる、というような構成も面白くて。大人の勝手な思惑で悲惨な運命を背負わされたかに思える、主人公の女の子が文子の物語を読んで、「世界はこんなだと思ってたけど、そうじゃない捉え方もできるかもしれない」と気づくんです。それからラップのリリックを書き始まるんですけど、その詩がめちゃくちゃかっこよくて、「私は辛いけど、辛い感じで来たけど、何も変わってないけど、ちょっと捉え方を変えたらやっていけるかも」みたいな。それを辛かった人たちに伝えたいと思うところで終わるんです。かなり要約してネタバレしてしまいましたけど。

After Talk-2

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BABELO 01:09:27

今日のインタビューを終えていかがでしたか?

星野概念 01:10:30

ブレイディみかこさんのお話にも繋がるような気もするのですが、僕自身も含めて、みんな人知れず家族に対する葛藤や、なかなか上手くいかない時がたくさんあるじゃないですか。それで一人ぼっちのような気がしたり、誰にも頼れないような気がしたりしますけど、そのことを悲壮感を持たずに、しっかりとシリアスに、それでいて希望はどこかにあるはずだという意識でいることを僕は大事にしています。それこそ精神医療に従事している中で、辛い境遇にいる方がお会いするのですが、「そういう方の素敵なところってどこだろう?」みたいに、きつい時ほど少し視点をずらしてみる。「こういうところが素敵だよね」という風な意識の変換の仕方は大事にしたいと思っています。

BABELO 01:12:54

カウンセリング自体がシリアスであると同時に、希望を持てるような機会になり得るということですか?

星野概念 01:13:09

そうですね。いとうせいこうさんとの『ラブという薬』は、そういったテーマでした。当時の僕はそこまで考えられていませんでしたが、せいこうさんは、そういうことを思っていたような気がします。当たり前にあった価値観がひっくり返るようなことが、実は結構あるんですよね。それも面白くて、「悲壮感を持ってこれを捉えていたけど、よく考えたら、別にそんなでもなくない?」みたいな感じに変わるような姿勢でいられたら。

オープンダイアログの話

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BABELO 01:14:27

今日はオープンダイアローグの本も持ってきてもらっていたんですね。

星野概念 01:14:56

これはまだ読めていないのですが、オープンダイアローグの第一人者であるセイックラさんとアーンキルさんが書かれた本です。僕はオープンダイアローグのトレーニングコースを1年受講していて、セイックラさんのお話も聞きました。聞いたので本を読むよりも、できるだけ実践やワークショップを重視していった方がいいかなという言い訳をして読んでいなくて。

BABELO 01:15:49

僕の母親はおそらく「HAP : 平成のありふれた心理療法」を生で体験したカウンセラーだったと思うんですが、そんな母に近年斎藤環さんのオープンダイアローグの本を買って渡したら「すごいね。これで本当にみんなが良くなったら、どれだけ幸せだろうかね」みたいな反応をしていました。

星野概念

そう思うじゃないですか。でも、実際にやってみると効果があるんですよ。

僕は以前大学病院に勤めていたのですが、大学病院のいいところって、赤字になるようなことをやっていても、組織が大きすぎるのでバレないっていうのがあって、それをいいことに勝手にやってたんですよ。それで、オープンダイアローグをやる時に、トレーニングコースを受けてたのは僕だけだったので、僕と興味を持ってくれたソーシャルワーカーさんとで試してみたんです。最初はみんな同じことを言うんですよ。「これで良くなったらいいけどね」って。「でも、興味はあるのでやってみたいです。」と言ってくれて、全部で1時間のセッションを6回ぐらいやったのかな。すると3回目ぐらいからはっきりと変化が起こりました。要はきつい状況にある人ほど、周りの人とはディスコミュニケーションになっていて、本人も言いたいことを言えていなかったりするわけです。「こんなこと言っても、わかってくれないだろう」みたいな感じになっている。でもセッションを重ねるうちに、いつの間にかそういった硬さがほぐれていて。だから、「こんなことやってうまくいったら、そりゃ良いね」という感じのことが100%ではないと思うけど、本当に起こるんです。ただ、時間と労力と人の数が必要なので、簡単にはできないんですけど。

BABELO 01:20:20

やっぱりそれは現場で実際に体験してみないと分からないんですね。

星野概念 01:20:27

そうなんです。オープンダイアローグとヴィパッサナー瞑想は体験しないと分からない。僕はやっぱり体感することが、何においても大事だと思っていて、それも神田橋先生は言ってるんですよね。体と心の響き合いというか、 何においても体感に勝るものはないですよ。

BABELO 01:21:15

最近、「身体化された心」という言い方をしてる人がいましたが、そういうこととも繋がって来ますね。

星野概念 01:21:32

今日もう1つ持って来たのは『美しき緑の星』という1996年の映画のDVDなのですが、SFでもあり社会風刺でもあるような内容で、今年見た映画で1番面白かった。

地球よりも随分進んだ文明の美しい緑の星があって、ここの文化には貨幣が存在しないんです。要するに贈与経済で、いっぱい持っている人が足りてない人に分けてあげて、そのもらった人も余ってたらそれをまた誰かにあげるという。だから、aさんとbさんの間で経済が成立してるというよりも、集団の中で複雑なんだけど単純にある人がない人にただ渡して行くので、争いが起こらないんです。緑に囲まれている環境で、鳥や動物が鳴いていて、虫がいるような、僕が行ってた瞑想センターみたいな感じなんですよ。物語としては、1996年の緑の星から地球に派遣される人がいて、権威とか上昇志向が価値とされて、人工物で溢れている地球で、その人は大変な思いをするんです。でも、この派遣された人の影響で、地球の人たちが目覚めるというか、気づいていく様子をコミカルに描いた映画です。

BABELO 01:24:33

なるほど。概念さんが「緩い繋がり」と言ったようなコミュニティ、そういう要素を持った場所を作りたいと思っていることと繋がって来るような気がします。

星野概念 01:25:07

うん、そうなんですよ。

BABELO 01:25:12

面白いですね。こういう話題って多分永遠に喋れるし、結論なんかも出せるはずはないんですけど。

星野概念 01:25:45

結論は出せないですね。でも、今だからこそ話せる内容でしたし、数日後とか時間が経って、また気づいてくることがあるような会話だったような気がしています。これもまた神田橋先生の言葉なんですけど、講演にしても、ワークショップにしても、「そこで何かを得るというよりも、 帰った後に脳が忙しくなるような会がいい会なんです」って。だから、今何かをつかむとか気づくというよりも、今後影響して、発酵していくような話ができたんじゃないかな。

まあ、僕がベラベラ喋ってただけなんですが、そういうのも大事にしていきたいし、どうなっていくか楽しみだと思いますけどね。

BABELO 01:27:07

神田橋先生、素晴らしいですね。

星野概念 01:27:11

キムさんの感性だったら絶対響くと思うので是非読んでみてください。

「コツ三部作」というのがあって、僕が今日持って来たのは『精神療法面接のコツ』なんですけど、他に『精神科診断面接のコツ』と『精神科養生のコツ(※改訂版は『心身養生のコツ』)』があります。どれも秀逸ですよ。

BABELO 01:27:50

期せずして、概念さんの原点となるロールモデルの話から始まって、最後も神田橋先生に行き着きましたね・・・

星野概念 01:28:08

かなり影響を受けていますからね。神田橋先生のほとんどがドンピシャだと感じてしまうんですよ。

BABELO 01:28:21

それだけ強いロールモデルになっているんですね。

星野概念 01:28:31

それでいて、師弟関係では全くないというのも、自分としてはいいかなと思っています。宗教っぽくはなっていないというか。

BABELO 01:28:39

関係が近すぎない。

星野概念 01:28:41

師弟関係があると、もっと分かることもあるとは思いますけど。要はファンなんですよ。 めちゃくちゃファンキーで、もう年齢も重ねられて仙人みたいな感じになってるので、仙人の言っていることや、書いていることを読んで、自分の中で感じて消化して、ものにしていくみたいなことはやりやすいんですよね。

BABELO 01:29:18

その傘に入りきってしまう感じでもないというか。

星野概念 01:29:21

そうそう。だから「おっしゃる」ではなく、「言ってる」みたいな感じで話せてしまうんです。

BABELO 01:29:31

いろんな活動する人がいて、それぞれが自分の今後の方向性なんかも考えると思うんです。今日の概念さんのお話を聞いていると、そういったロールモデルがあることで一気にモチベートされたり、ぐっとエナジーや時間の使い方がシャープになるような気がしました。めっちゃファンなんだけど、別に師匠じゃない、っていうあり方があるんですね。

星野概念 01:30:15

バンドやってた時に、あの人は何歳でこのステージ立ってたとか、そういうの意識するじゃないですか。だから、先生が「コツ三部作」を書いた年齢とかが気になったり。

BABELO 01:31:06

それも含めてのロールモデルなんですね。

カルチュラルアントレプレナーシップ

星野概念 01:31:36

カルチュラル・アントレプレナーシップっていうのは、どういうことなんですか?

BABELO 01:31:45

そんなに定義が明確にされているわけでもないのですが、教科書的な僕の解釈で言えば、イギリスの国策に紐づいて、何人かの人が言っていた言葉なんです。70年代以降停滞した英国経済をどうブーストさせるかというところに、無数の文化や芸術に携わる個々人がそれをエンタープライズしていく、というようなアイディアが生まれた。例えば、パフォーミングアーツで生計を立てる人、ドローイングで生計を立てる人、写真で生計を立てる人なんかが増えれば増えるほど、経済的も文化的にもみんな良し、みたいな話があって。さらに対外的な国家のブランディングとしても良し、というような。そういった大きな文化政策上の背景があるときに、ポコっと出てきた言葉として「カルチュラル・アントレプレナーシップ」があって。でも、言わんとしているのは、そういう経済のことだけではなくて、人の人生というものを考えた時に、自分なりの営みとして、アートやカルチャーみたいなものを真ん中にして仕事をしていくっていうことが、1人1人の幸せを考えるときにはいいんじゃないかという文脈が一応含まれているんです。そこだけを取り出すと、どんな事柄に関しても話せるじゃないですか。だから、回りくどいんですけど、そういった大きな話がある中で、文化や芸術で仕事をしていく人というところにフォーカスすると、今日のようにいろんな角度から話せるというか。

星野概念 01:33:49

なるほど。

BABELO 01:33:50

僕は1個の眼鏡ぐらいにしか思っていなくて、それこそ人と話すきっかけぐらいの。「文化と経済って、水と油ですね」とか言われるけど、実は誰もがちょっとそうありたいと思っていることでもあって。お金稼ぎだけじゃなくて、やっぱり文化的に豊かな存在でありたいと思った時に、カルチュラル・ビジネスとか、エンタープライズ、アントレプレナーシップってことばを通してもう少し考えてもいいのでは。文化事業って都合のいい言葉ですけど、ちょっと人を振り向かせるところがある。それに近いものだと思っています。僕も気になっちゃって、結構勉強したんですけど。さっきみたいに個人の中で「ジョブとワーク」とか「カルチャーとエンタープライズ」に分けてる人もいるし。すごいアーティストだけがそれらを同時に叶えてるように、みんな見ちゃうんだけど、結構みんな色々やりたいんですよね。

参加者 8 01:34:45

そうですよね。

BABELO 01:34:47

ただ、一筋縄にいかない水と油みたいな存在をどう折り合いをつけるのかといった問題や、あるいはフロー体験のような充足感に関する話にも触れてくる領域で。 さっき言ったバイト感覚での仕事もあったりとか。でも、正解のモデルなんてないことに気づいたんです。最初は、類型化できるんじゃないかって、科学的なアプローチで考えようとした時期があったんですけど、結論は千差万別であると。1人1人自分のやり方を見つけていくことにしか答えがないと思うようになったので、だから「自分だけのナラティブをどう見つけていくか」みたいな方向で考えていくのが意味があると考えるようになりました。例えば、今日のインタビューに関しても、概念さんには概念さんの形があっただけで、次に話した人にある形が見えたら、それをグルーピングしていくということではなく、それがそのまま描写されて、たまたま読んだ人が、そこに自分の人生を照らし出すヒントを見つける場合もあれば、見つからない場合もある、みたいなことでいいかなと思っています。

星野概念 01:35:57

そうか、そう考えると僕がやってることと割と重なりますね。その人のナラティブの中で、カルチャーや経済といった多面性に光を当てながら話を聞いていくような感じってことですよね。

BABELO 01:36:35

確かにそうかもしれないです。そういう人たちの話を今みたいにいろんな角度から見て、物語にしていくという風になるのかな。でも、本当はそういう人たちに道具を提供していきたいとも考えていて。例えば概念さんの場合だったら話すことで、滞る原因となっているしこりを取ってあげたりするわけじゃないですか。僕の場合は例えばそういう人たちが困ってるところに、何かしらの道具が提供できたら、ほんとはいいんでしょうけど、それについては試行錯誤していくつもりです。

星野概念 01:37:48

キムさんの大事にされている考え方の片鱗に今触れられたような気がするんですけど、普段の活動や仕事としては、どういったことをされてるんですか?

BABELO 01:38:12

僕は広告会社で15年間働いたのですが、一旦転職することにしたんです。直近は小さなシンクタンクのような組織にいたんですけど、次はコンサルタントをやります。イギリスの新聞社が小さいコンサルティングチームを作っていて、そのアジア展開というご縁をいただいたので、それにコミットしようと思っていまして。これまでの話の流れで言うと、僕は結構ビジネスサイドの自分を大事にしたいと思っています。そこはそこでしっかりやりつつ、このインタビューのようなものは、僕の中で別の箱に入っていて、経済性の部分では考えていないんです。これが自分の中での、今のところのバランスなんです。

星野概念 01:40:27

ずっと研究者をしているわけでもないんですね。

BABELO 01:40:43

そうですね。この2年間はイギリスで勉強をして、帰国してからもいくつか翻訳の仕事や、文章を書いたりはしていますけど、その前は結構ビジネスを、という感じです。

星野概念 01:41:21

なるほど。イギリスの生活はどうでしたか?僕も行ってみたいと思っていて。

BABELO 01:41:57

人間としての振る舞い、理性的なもの、コンセプトみたいなものがが1番上にあるという感じがあるのかな。例えば、それこそブレイディさんの本にも出てきますけど。たとえばジェンダーのこと一つとっても「あの子は男の子だから、男の子っぽい振る舞いをしてる」っていう発言自体を、少し咎めるような空気の存在を、ママパパコミュニティで感じたとき。逆にリベラルすぎて気持ち悪いかもしれないけど。そういうものに触れたのは面白かったですけど。

星野概念 01:43:03

それは面白そう。2年間というとコロナ禍で行ってたってことですか?

BABELO 01:43:08

行った後に感染が始まったんですよね。でも、そういうタイミングで行ったので、 小さなアパートメントに住んでたんですけど、限定された空間の中にしかいれなかったから、隣人たちとすごく仲良くなっちゃって。多分コロナ禍じゃなかったら、そこまでローカルと仲が深まることはなかったと思います。パックされたことで、トラフィックがめっちゃ増えたというか。だから今では大切な友人同士になっていますね。

星野概念 01:43:58

素晴らしい。あちらでは大学に行ってたんですか?

BABELO 01:44:01

大学院で修士課程を2つやりました。人文系の修士って1年で終わっちゃうんですよね。ほんとは僕もサイコロジーに興味があって、そっちもやりたかったんですけど。”Cultural Entrepreneurship” という文化政策系と、もう1つはたぶん日本語で「国際社会学」と言われるグローバルの問題を扱う社会学です。”Migration and Mobility Studies” というのがあって、グローバリゼーションの間で起きてくる諸問題の中で、かなり問題が多いのが、難民や移民の話で、世界的にその辺りを扱うサイエンス系のマスターをやってきました。

星野概念 01:45:01

じゃあ、論文も書いて。

BABELO 01:45:03

論文もがっつり書きました。 ビジネスのフィールドにいた人間が2つの論文を書くのは、結構大きなトランジションでしたけど。実は博士もやりたい気持ちはあるんですけど、そうすると飯が食えないので。50歳とかになったらそういうことをやろうというのは頭にありますね。

星野概念 01:45:57

良いですね。是非やってください。

BABELO 01:46:05

勉強方面のことで考えていることはありますか?

星野概念 01:46:30

イギリスはお国柄なのか分からないのですが、地域医療の仕組みも納得できるようなものになっていて。イギリスとイタリア、それにベルギーも面白いんですけど。慢性的な精神疾患に対して、ずっとその人を支えるチームがあって、日本の精神科の在宅医療は割と急性期にクライシスになると入院、みたいな感じなんです。イギリスはその急性期治療チームがあったり、若くして発症し始めた人を支えようとする地域医療のチームがあったりして、仕組み化されてるのが興味深くて。日本にはないので、実際どうなんだろうって見に行ってみたいと思っていて。

BABELO 01:48:03

僕にとっても、日本の社会システムを俯瞰的に見るに当たって、海外での経験は活きていると思います。再三繰り返しになりますけど、ブレイディさんの記述は大きくて。保育の仕組みを通じて、社会の仕組みを見るようになるし、イギリスには医療の国民皆保険「NHS」や、かかりつけ医の「GP」の制度があって、合理的に映るけど、根底は社会インフラの設計が違うじゃないですか。それも国家の関与の度合いや、「大きな政府」や「小さな政府」を含めて、欧州型の社会システムがあるところに成立する医療だという風に見るようになってきました。そこからアメリカ、欧州、日本とを比較して考えられるようになったり。文化芸術に従事する人たちも、 欧州型の、政府の助成金である程度やる場合と、一方で、アメリカではNPOや、民間企業から流れてくるお金がチャリティに流れてというドネーションレベルの人が多い。その一方で日本は経団連から流れてくるモデルだな、とか。そういう風に比較して見るようになりました。今の医療の仕組みも、前提となる社会インフラの仕組みが違うから面白く見えるし、その意味でそれをそのまま日本に持ってきても、機能しないケースもあるんだろうなという風にも思うようになりました。

星野概念 01:50:00

オープンダイアローグもそうです。あれもフィンランドの国家が全部出すからできる部分もあって、日本ではその辺りがハードルになっていますね。

BABELO 01:50:19

やっぱり輸入すればいいってものではありませんよね。本当の意味でのトランスレーションはローカライゼーションだし。ある土地の匂いにどう接続できるかというところまでやれてこそだと思います。

星野概念 01:50:40

日本で実践に落とし込む時には、ベースは「和」になるわけで。そこはほんとにあると思う。でも僕はずっと日本の東京にいて、それしか知らないからちょっと離れてみたい気持ちはあって。その岡山の病院に行くと、イギリスにも行きやすくて。

BABELO 01:52:27

そういうのもあって、岡山というのがあるんですね。

星野概念 01:52:32

だけど、迷惑はかけたくないので。 めちゃめちゃ揺れてるとこです。